みすず08年3月号と中井久夫のSSM(丸山ワクチン)談義

元ウィルス研究者にして精神科医中井久夫がその人気連載において「臨床瑣談5 SSM、通称丸山ワクチンについての私見」を書いている。これで丸山ワクチンのことを専門家はSSMと略すとはじめて知った。あの信頼に足る中井久夫の言葉として語られる丸山ワクチンは適切な利用において非常に効果のある治療法であることが無駄のないしかし説得的なロジックと事例を伴ってずしりと伝わってくる。しかし一方で現代医学の専門家には丸山ワクチンは完全に無視されている。このギャップが医療というものの恐ろしさだ。しかし一方でそれは他の分野たとえばソフトウェア工学の世界でのアジャイル手法の無視というのと同じ現象を示しているのかもしれない。人間が中心的な分野での専門性においていつでも起こりうる現象なのだと感じた。癌を炎症の延長で捉える見方やプラセボ効果に対する中井の説明も興味深い。薬に対する患者の不安を精神科医の深い知見で取り除ければそれだけで薬の効果が変わってくるのだ。しかしこの論理的でいて柔軟な不思議な文体はなんとも魅力的である。